桶絞りはヒノキで作られた桶を使い、大きな柄などを染め分けする際に用いる絞り技法で、染める部分を桶の外側へ、染めない部分を桶の内側に入れてしっかりと蓋をし、桶ごと染色します。
その「桶絞り」技法を用いて、巨大几帳 「北斎 凱風快晴」の富士山部分と空部分の染め分けを行います。
空部分から染色するため、空部分を桶の外側、富士山部分を桶の内側に入れていきます。
一つの桶の上下で2枚ずつ、もう一つの桶の片面で2枚、計6枚の生地を桶絞りします。
下画(紙)を使った説明
完成後
普段、絞り職人は自宅で絞り作業を行いますが、今回は特別に京都絞り工芸館へいつも使用している道具一式を持ってきていただき、撮影に協力していただきました。
今回の訪問絞り職人は、この道50年、大ベテラン長谷さんです。
使用する桶は直径36㎝、30年以上も使い続けているそうです。
ヒノキは熱にも水にも強く、しっかりとメンテナンスをすることによって長く使うことが出来ます。
絞り作業を始める前にカンナで桶本体と蓋を削り、両方の合い口がぴったりになるように調整します。
生地を汚さない、傷つけないために桶のふちに紙を敷いていきます。
染め分け線に沿って針を打っていきます。昔は鉄針を使っていたそうですが、今は溝の無い特注ステンレス製の針を使っています。
針を打ち終えると、あらかじめ用意してある「詰め紙」(折り畳んだ少し分厚い湿った新聞紙)を生地のない部分に敷き、生地との段差をなくします。
最後にもう一度桶のふち周りに紙を敷き蓋をします。
桶の上下を強くて太い木材で挟み、締め木(カシ素材の平たい棒)を用いて両端を麻の緒でしっかりと仮締めし、打った針を抜き、根ぞろい(染め分け際部分の調整、確認)を行います。
もじきり工程:
もじ竹(約20㎝程の板状の竹)と、かなてこ(鉄棒)を使い、てこの原理を利用して麻の緒を締めていきます。
霧吹きで麻の緒を濡らすことにより、突然に緒が切れてしまうことを防ぎます。
片方だけに締まる圧力が掛かり過ぎると蓋の位置がずれたり、形が崩れてしまい、ここまでの作業が台無しになるため、締める微妙な強さ加減が重要になり、体を使った力を要する作業ですが慎重に緒を締めなくてはなりません。
もじきり作業を終えると様々なサイズの鉄へらを用いて、こみ作業(桶本体と蓋の間に紙を詰める)を行い、染め分け際部分の最終調整を行い、桶絞りの全工程の完了です。
長谷さんに桶絞りの醍醐味を聞いてみました。
「そら~あれやで~、何といっても、あの染め上がりの時、桶の蓋を開けた瞬間に染め分けがきれいにぴしっとでている時、あれを見る時がやっぱり一番最高やなぁ~」
絞り染めの工程は全てが分業です。
しっかりと絞られた桶は染め職人のもとへ送られ、染色工程へと進んでいきます。
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